2050カーボンニュートラルへ向けた挑戦のはじまり 2050カーボンニュートラルへ向けた挑戦のはじまり

Chapter01プロジェクトの始動
~社長の想い~

「2050年代をターゲットとするカーボンニュートラルを宣言したい」
暦上は秋だが、まだうだるような暑さが残る2020年10月初旬の沖縄、急きょ役員会議室に集められた関係部門のメンバーを前に、社長は単刀直入にそう言葉を切り出した。
カーボンニュートラルとは、CO2の排出を正味ゼロにするという意味である。沖縄の実情を知る社員であれば、選択肢の限られた沖縄エリアにおけるカーボンニュートラルには様々な高い壁が待ち受けている事が容易に理解できる。社長は続けた。
「脱炭素の流れは避けて通れる道ではなく、エネルギー事業に対する社会の要請も今後ますます強くなっていく。来たる流れに自らを投じ、積極的に進めることで活路が開ける。大手電力でも初めての宣言になるが、他社と比べると明らかに構造的に不利な当社が先駆けて宣言することの意義は大きい。カーボンニュートラルに対しては色々な道筋があるはずだが、先を見据えていま我々ができること、やっていくことをロードマップとして取りまとめ、できれば2020年内に示したい。もちろん1つの部門でできることではないため、こうして皆さんに集まってもらった。進めるにあたっては、これから2050年を見据え会社を担っていく若手を積極的に巻き込んで欲しい。皆も感じている通り、当社にとっては相当厳しい挑戦になる。しかし、各部門の英知を結集させ、成し遂げようではないか。」
社長の熱い想いを聞き終えたメンバーも心が熱くなった。各々、近い将来、当社が確実に取り組んでいかなければならない課題であることを自覚していたので、心の準備はできていた。これが、発電部を筆頭に、企画部、環境部など関係部門のメンバーで構成された「プロジェクトゼロ」の始動となった。

Chapter02沖縄エリアの現状

電気事業といっても、エリアによって状況は大きく異なる。
隣接エリアと電気的につながっている本土エリアに対し、本土から遠い南に位置する沖縄は他のエリアとはつながっていない単独の電力系統となっている。さらに東西1,000km、南北400kmという広大な海域に点在する沖縄本島を含む37の有人離島に電気を届けるために、11の独立した電力系統を形成している。
電力系統が他のエリアとつながっていれば、仮に発電機にトラブルがあった場合でも他のエリアから電気を送ってもらうことができるが、沖縄エリアにおいてはエリア内で全てまかなう必要があり、かつ11の独立した系統それぞれで完結しなければならない。
そのうえ、本土エリアにおいてはCO2を排出しないカーボンニュートラル電源の大部分を水力発電や原子力発電でまかなうことができるが、沖縄エリアにおいては地理的、地形的および電力需要規模の制約から水力発電・原子力発電の開発が困難である。
そのような構造的な不利性を抱えている沖縄エリアでは、化石燃料を使った火力電源に頼らざるを得ない。
近年、沖縄エリアにおいても太陽光発電や風力発電が多く導入されてきたが、様々な制約により、既存の発電所と比較すると小規模なものが多く、発電量ベースではわずか6%に留まっている。
このように、沖縄エリアにおけるカーボンニュートラルの実現には、高い壁が立ちはだかっているが、希望はあった。2050カーボンニュートラル実現に向けたロードマップを検討している11月に、波照間島での実証試験において、100%再エネ供給の継続時間をこれまでの10時間から一気に10日間に記録を伸ばしたのだ。まさにこのプロジェクトの推進力となる「波照間の奇跡」だった。仮にこの技術を応用できれば沖縄本島でも再エネ100%を実現できる可能性への期待があった。
とはいえ、あくまで小規模離島の小さな電力系統で実現した技術であり、はるかに大きな規模となる沖縄本島の電力系統にそのまま転用できるものではない。また、それ以前に本島系統の電力需要の規模を賄えるほどの再エネをまずは導入しなければならない。課題は山積している。
沖縄エリアといえば日差しが強く太陽光発電に適したイメージがあるが、意外にも年間の日照時間はそれほど長くもなく全国でも下から数えた方が早い方であり、加えて本土のように広大な土地があるわけでもないため、太陽光発電の導入には現時点では制約がある。
風力発電も太陽光発電と同様に立地が限られる上、新たな風力発電を建設するためには昨今大型化している台風に耐え得る設計基準をクリアする設備でなければならない。再エネ100%を達成した波照間島では、倒すことで暴風を避ける可倒式の風力発電設備を導入しているが、その利点の反面、一つの設備が発電できる量は少なく、沖縄本島の電力需要を賄うためにはかなりの数の風力発電設備を導入する必要があり、やはり広大な土地が必要となる。
また天候などにより発電量が大きく左右される太陽光発電などの変動性の高い再エネはただ導入すればよい訳ではなく、電力品質に可能な限り悪影響を与えないように対策を講じていく必要がある。当社の使命である安定供給を次世代にも繋いでいくためには系統安定化対策もまた急務である。
そして何よりも、既存の火力発電設備に比べると再エネの発電設備は小規模であり、発電効率が悪くコストが割高となることから、現行水準の電気料金を維持するためにも経済性と両立させることも検討すべき課題の一つとしてのしかかっている。

Chapter03再エネの主力化

早速、メンバーは検討を始めた。沖縄エリアの構造的不利性を抱える中、CO2排出ネットゼロという難題に対してどのように道筋を作っていくべきか議論を重ねた。
CO2排出ネットゼロを掲げるうえで再エネの主力化は必然であった。波照間島の事例もあり、再エネ100%は技術的な可能性はあるが、そこに至るまでに立ちはだかる壁は多い。立地の問題やコストの問題など、ブレークスルーを幾重にも重ねなければならない。しかし、この先どのような未来が待っているかは誰も予想できない。20年前には太陽光発電がこれほど普及することは想像できなかった。いま見えている道に対して着実に歩みを進めていくしかない。メンバーがカーボンニュートラルに向けたロードマップの検討を開始して間もないころ、政府から「2050カーボンニュートラル宣言」がなされた。国としても同じ方向を向いていることが分かり、我々の向かう方向が間違いのないことだと確信し、議論は加速した。
国においても2050カーボンニュートラルに向けて再エネを有望視している。当社においても再エネを可能な限り導入していく筋書きは必然であった。再エネ主力化に向けては、既に新たな事業展開に向けた別プロジェクトが並行して動いていた(後述のPV-TPO事業参照)。

Chapter04サービスをさらに、
シンカさせよ

再エネ主力化を推し進めることで、再エネ100%という未来がくる可能性はゼロではないかもしれない。ただし、太陽光や風力の導入には限りがあり、また安定的に発電できる水力や地熱の導入が難しい沖縄の現状を考えると再エネだけの筋書きでは絵に描いた餅になってしまう可能性が高い。
太陽光や風力は自然条件に左右される変動電源であることを踏まえると、天候不良などが続いたときに代わりに発電をバックアップする存在が確実に必要となる。その存在こそ、沖縄の安定供給を守ってきた火力発電だ。現在も出力が不安定な再エネの発電量の変動に応じて、火力発電の出力を柔軟にコントロールし、需要と供給を常に一致させることで、電力の品質を保っているが、再エネの拡大を図っていく中にあっては、その役割が一層重要になる。そのような未来に向けて火力発電も化石燃料ではなく、アンモニアや水素といったCO2を発生させない燃料に置き換えたカーボンニュートラル化を目指す必要があった。

その上で、いまの時点で取り組んでいくべきことは何か。将来に向けた技術検討は必然であるし、現時点でも既に取り組んでいる。次世代の発電方式に置き換えるまでの間、既存の火力発電所がそのままでいいはずはなかった。これまで沖縄エリアの安定供給を支えてきた主力の火力発電に対して、世論は厳しくなる一方であった。特に、石油や天然ガスよりもCO2排出量の多い石炭火力発電は批判の的になっている。しかし、安価な燃料である石炭火力は、1970年代後半のオイルショックを受けて高騰した電気料金の低減に寄与し、現在の電気料金水準は石炭火力発電があってはじめて成立している。また、安定的に調達が可能で燃料途絶リスクも低く安定供給にも寄与している。一方で、地球温暖化対策との両立を図るためには、可能な限りCO2排出量を低減していく方向が望ましい。これまでにも、沖縄県内で有効利用されず焼却処分されていた建築廃材等(木質バイオマス燃料)を石炭火力に混焼することや、石炭や石油よりもクリーンな燃料であるLNG火力発電所の導入に取り組んできた。石炭の比率を可能な限り低減する道筋として、その取り組みを更に拡大する方向で決定した。
どんな未来が待っているかはわからないが、将来に向けて検討すべきこと、いま足下で取り組むべきこと、いまの我々にできることを着実に描いていこう。議論の末、全ての筋書きが定まった。

Chapter05カーボンニュートラル宣言
~挑戦の始まり~

プロジェクトが発足してわずか2か月もたたない12月8日、取締役会決議を終え、当社は2050 CO2排出ネットゼロを宣言し、達成に向けたロードマップを公表した。カーボンニュートラル宣言は、後に同様の宣言をすることになる大手電力会社に先駆けて、当社がその先陣をきったのである。記者会見では社長・副社長が当社の目指す方向性を発表した。特に社長はエネルギーを通して沖縄の力になるという熱い想いを込めたプレゼンテーションを行い、会見会場の取材記者を魅了した。沖縄電力のカーボンニュートラル宣言は、翌日の各新聞の一面を飾り、各方面から多くの取材や問い合わせが殺到した。プロジェクトメンバーは、今回の宣言が社会を動かすほどの大きなものであることを実感した。ただし、今回の発表は始まりに過ぎず、ここから果敢な挑戦がはじまっていく。プロジェクトメンバーはそれぞれの部門で具体的な取り組みの実現に向けて奔走しはじめた。

Chapter06カーボンニュートラル推進本部の設置、ロゴマークの設定

まず、組織的対応を急ぐべく、CO2排出ネットゼロに向けたロードマップに掲げた具体的な諸施策を着実かつスピーディーに推進していくため、カーボンニュートラル推進本部を新設した。また、全社一丸となって各種取り組みを推進していくメッセージとして、新スローガン「2050 おきでんZEROへの挑戦!」およびロゴマークを制定した。

Chapter07PV-TPO事業の開始

次に、カーボンニュートラルとビジネスを融合させるべく、これまで土地の所有者が太陽光発電設備を所有し、維持することが主流であったが、当社グループにおいて太陽光発電設備を所有し、お客さまの建物の屋根に無償設置し、電気を供給するサービス「かりーるーふ」を開始した(P V-TPO事業)。建物の屋根を活用することで土地が限られた沖縄エリアで太陽光発電の導入を拡大させることが可能であり、また、蓄電池を併設することで停電時にも電気が利用できるほか、通常時においては電力系統の負荷抑制に活用することを見越している。

Chapter08CO2フリーメニューの提供

また、沖縄県内で有効利用されず焼却処分されていた県内の建築廃材等(木質バイオマス燃料)を石炭火力発電所において混焼する取り組みを拡大した。これにより、化石燃料である石炭の消費量を減少させつつ再エネであるバイオマスの利用を拡大することができる。さらに、このバイオマス等の再エネ電源に由来する電気を活用した料金メニュー(うちな~CO2フリーメニュー)の提供を開始した。

Chapter09カーボンニュートラルに向けた連携協定

需要サイドの家庭、産業や運輸の分野においても、カーボンニュートラルに向けた取り組みが必要となることに着目し、沖縄県をはじめ県内自治体、企業と連携協定を締結することにより、これまで以上に緊密に連携・協力し、諸課題の解決に向けた取り組みを推進していくこととした。これまで、自治体や地元企業、教育機関(琉球大学)と協定を結んでいる。これらのパートナーとPV-TPO事業の導入、CO2フリーの電気料金メニューの提供による再エネの導入拡大や脱炭素の課題解決に資する新技術の創出に向けた共同研究・共同事業、また環境教育および海浜清掃活動などの取り組みを推進する協力体制を作り上げている。

Chapter10新たな実証試験や調査事業の開始

そして、今後の技術的革新を見据え、再エネと蓄電池を活用し、災害等による大規模停電などの非常時においても、電力系統からの電力供給を受けずとも小規模エリア内で自立的に電力供給を可能とする新たなエネルギーシステムを構築することを目指した地域マイクログリッド実証事業や、既存火力発電所における水素混焼を含めた水素社会構築に向けた調査事業を開始した。

カーボンニュートラル宣言からわずか1年、急進的に数々の新しい取り組みが動き出している。

地域とともに、地域のために、沖縄電力の挑戦は続く。

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