太陽光+蓄電池無料設置サービス「かりーるーふ」開始へ ~大手電力グループ初の挑戦~ 太陽光+蓄電池無料設置サービス「かりーるーふ」開始へ ~大手電力グループ初の挑戦~

PROLOGUE

2020年12月8日、当社は旧一般電気事業者電力小売自由化以前より、地域での電力供給を認められていた北海道電力、東北電力、東京電力、中部電力、北陸電力、関西電力、中国電力、四国電力、九州電力、沖縄電力のこと。大手電力とも言われる。の先陣をきってカーボンニュートラル宣言を行った。「沖縄電力ゼロエミッションへの取り組み ~2050 CO2排出ネットゼロを目指して~」と題し、達成するための2つの方向性として
再エネ再生可能エネルギーの略。太陽光、風力、水力、地熱といった、自然界に存するエネルギーの総称。主力化」と「火力電源のCO2排出削減」を掲げた。
沖縄県においては、地理的・地形的および電力需要規模の制約などから、水力・原子力の開発が困難であり、化石燃料に頼らざるを得ない。そのような環境下にある当社が先陣をきってカーボンニュートラルに関する宣言を行ったことに対する反響が冷めやらぬ中、年が明けた翌月2021年1月22日、「再エネ主力化」の具体的施策として「かりーるーふ」を矢継ぎ早に公表した。その裏には、様々な困難を一つひとつ乗り越えていく物語があった。

Chapter01挑戦の始まり(できないと言わない)

「今までの電気を作り、送り届け、販売する、というビジネスモデルだけでやっていける時代はもう終わった。我々はこの状況で何ができるだろうか。」
今回のプロジェクトの指揮を執る副社長は静かに語りかけた。
沖縄でムーチーびーさー沖縄の方言。旧暦12月8日に、月桃の葉(カーサ)に包んだ餅(ムーチー)を仏壇と火の神(ヒヌカン)にお供えする家内安全・無病息災を願う行事があり、その時期が1年で一番寒いとされることに由来している。と言われる1年で一番寒い時期を迎えた2020年2月、再エネ主力化実現のため、太陽光発電などの再生可能エネルギーを分散型電源と捉えて、戦略的に主体的な活用を目指す「戦略的分散型電源活用プロジェクト」が発足した。そのキックオフミーティングでの一幕である。
「脱炭素の流れは、避けて通れない。」
副社長の声は落ち着いているが、各部門から集められたキーパーソンは、肌寒さとは異なる身が引き締まる感覚を覚えた。
「我々はこの状況を単なる課題とせずチャンスと捉えたい。」
副社長は、深く息を吸い込み視線を一人ひとりに向けていく。
「このプロジェクトにおいて、私から皆さんにお願いがある。すぐに"できない"とは言わず、"できること"を粘り強く探してほしい。」
次第に部屋は熱意に包まれていった。副社長の言葉に触発され、メンバーたちは自分たちの手でこのチャンスを掴んでいく必要があると真剣に受け止め始めていた。戦略的分散型電源活用プロジェクトの始動の瞬間だった。

Chapter02再生可能エネルギー活用の課題

太陽光発電をはじめ再エネは、天候や風況により発電出力が大きく変動することが課題となる。電力系統においては、お客さまが使用する電気の量(需要)と発電する電気の量(供給)を常に一致させる必要があり、再エネ出力が変動することで、そのバランスが崩れてしまうと大規模な停電に繋がってしまう可能性がある。
特に、太陽光発電は主に昼間に発電するが、冬場など需要が比較的少ない時期には、相対的に再エネの発電量が多くなるため、電力の安定供給を確保するために、「再生可能エネルギーの出力制御」に至る可能性もある。貴重なCO2フリーの電気の一部が利用できないという課題である。
この課題を解決するためには、再エネ余剰電力を電力系統に流すのではなく、例えば蓄電池に充電して活用するなどの方法が考えられる。しかし、一般的に蓄電池は高価であり、また蓄電できる容量に限りがあることから、エリアのエネルギーコスト全体を考慮すると活用するにはまだまだ課題がある。
このように「再エネ主力化の実現」のためには、再生可能エネルギー特有の課題を一つひとつ解決することが必要であった。山積した課題の中でも「“できること”を粘り強く探す。」そう決心したメンバーたちは、「再エネ主力化の実現」のため、段階的に施策を検討した。戦略的分散型電源活用プロジェクトでの検討においては、まずは再エネの導入拡大に寄与する検討(増やす)、その上で再エネを主力的に活用する(使いこなす)ことで「再エネ主力化の実現」を目指すべく施策を検討することとした。

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Chapter03PV-TPO(Photovoltaic Third-Party Ownership)について

再エネの導入拡大に寄与する施策の検討にあたっては、プロジェクトの立ち上げ当初からあるビジネスモデルに注目していた。それが「PV-TPO (Photovoltaic Third-Party Ownership)」というビジネスモデルである。
「第三者所有モデル」とも呼ばれるこのスキームは、太陽光発電設備をお客さま宅に無料で設置し、その発電した電気をお客さまに販売するサービスである。お客さまは太陽光発電設備を導入する初期費用が不要であることに加え、太陽光発電で発電した電気を沖縄電力の電気料金単価より低い価格で購入することで、電気料金の低減にも繋げることができるため、必ずしも環境問題への関心が高くないお客さまに対しても太陽光発電導入のメリットを促すことができると考えていた。
プロジェクトの立上げの際にも、PV-TPO関連のサービス化は課題解決の仮説として重要視していた。

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「ただし、従来どおりのPV-TPOではだめだ。」
太陽光発電をはじめ再エネを熟知しているメンバーだからこそ、直観的に理解できた。いくら太陽光発電がPV-TPOによって普及拡大しても、沖縄における電力系統との協調性、安定性の課題をクリアできなければ、再エネを主力的に使いこなすとは言えない。沖縄電力独自のサービスを作る必要がある。PV-TPOに加えて蓄電池を設置することで再エネの普及および系統への影響低減を図れないだろうか。そう考えるのは必然であった。

Chapter04幾重にも立ちはだかる壁

沖縄電力独自のPV-TPOサービス化に向けて、太陽光発電設備+蓄電池の無料設置サービスとすることに担当者は腹を決めた。ただし、その実現に向けて検討を重ねれば重ねるほど、幾重にもたちはだかる壁にぶつかっていた。
第一にPV-TPOサービスの技術的設計である。お客さまが安心して利用でき、かつ電力系統への影響を極力抑える事。これまでの電力系統や安定供給の観点から再エネと向き合うことの難しさを十二分に理解している我々だからこそ、いざ太陽光を主軸としたサービス設計となると、様々な迷いや悩みが生じ、プロジェクトメンバー間でも多様な意見がぶつかった。
続いてコストである。太陽光発電設備のみならず蓄電池まで無料設置することで事業採算性は一気に厳しい見通しとなった。やはり蓄電池のコストが高く費用回収することが非常に困難であった。
その上でサービス料金設定の課題もあった。お客さまに価値を提供するために、PV-TPOによって提供する電気料金は、従来の電気料金よりもできる限り割安で設定したい。しかし、前述の蓄電池コストが重くのしかかり満足のいくサービス料金設定がどうしても難しかった。
その一方で、プロジェクトメンバーが蓄電池にこだわったのはもう一つ理由があった。
それは、将来的なVPP(Virtual Power Plant)の可能性である。
VPPとは、多数の小規模な再生可能エネルギーや蓄電池などをまとめて制御・管理することで、一つの発電所のように機能させることを指す。不安定な再エネのエネルギーを安定的に活用する「再エネ主力化」の実現のためにはVPP技術への期待は大きい。これまで長期にわたり、沖縄エリアにおける電力の安定運用と再生可能エネルギーに向き合ってきた我々だからこそ獲得すべき技術なのではないか。このサービスをお客さまと沖縄電力、そして沖縄県にとって本当に意義のあるものにしなければならない。本当の意味で再生可能エネルギーを使いこなすためには、今ここで投資すべきではないか。メンバーとの打合せは毎日夜遅くまで続いていた。

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Chapter05新たな技術との出会い

ある日、プロジェクトメンバーはある人物と話していた。
ネクステムズの比嘉社長である。ネクステムズは、宮古島において太陽光発電設備+蓄電池の無料設置サービスを展開している全国でも類を見ない先駆者であった(その後、沖電グループの関連会社として参画)。
比嘉社長は過去に沖電グループの会社 に在籍していたこともあり、沖縄エリアでの太陽光の普及に伴う電力系統への影響についても十分理解していた。再エネの余剰を極力出さないように、なるべく太陽光で発電した電気はお客さまで自家消費していただくこととし、そのために技術力を細部に至るまで徹底して向上させていた。例えば、太陽光発電設備の設置方法一つを取っても他社とは異なっていた。太陽光発電設備の設置については、売電量を上げる目的から「南向き」に設置するのが一般的であるが、ネクステムズではあえて東西に向けて太陽光を設置している。朝に東から太陽が昇り、夕方に西へ沈むまで、まんべんなく太陽光で発電した電気を自家消費できるようにするための設計思想である。このようなネクステムズの持つ思想には共感できる点が多く、またその技術力には、大いに学ぶべきものがあった。
沖縄電力は、電力の安定供給のために太陽光をどのように使いこなすべきか必要な要件について熟知している。ネクステムズはそれを実現するための十分な技術力要件を持っている。新たなPV-TPOサービスの実現のために、プロジェクトメンバーはネクステムズと当社が連携することができないか相談を持ち掛けたのである。
「ネクステムズの持つ技術力と沖縄電力の持つ電力系統の課題を考慮したサービス設計により、沖縄にとっての新たな太陽光発電設備+蓄電池無料設置サービスを作り上げましょう」ネクステムズ比嘉社長の声が響き渡り、その場にいた全員の表情がやる気と自信にみなぎった。新たな技術と交わりあった瞬間であった。

Chapter06かりーるーふの誕生

ネクステムズの新たな技術を取り入れ、沖縄電力によるPV-TPOサービスモデルの検討は進んだ。プロジェクトには、販売部門、事業開発部門のメンバーのアドバイスを取り入れ議論は連日ヒートアップしていった。
サービスの導入にあたっては、太陽光発電や風力発電の導入に知見のある沖縄電力のグループ会社である沖縄新エネ開発に担っていただくこととした。沖電グループのサービスとして機能するために、申込受付、お客さま宅での事前調査、契約締結、サービス提供、その後のフォローに至るまでオペレーションを設計していった。沖縄新エネ開発のメンバーも次第に我らのサービスとしてお届けする責任感を抱きながら、細部にわたるまでプロジェクトメンバーとともに深堀検討を続けた。
 PV-TPOのサービス自体が、当時まだ広く普及されているものではなく、お客さまにきちんと理解いただけるかも課題であった。プロジェクトメンバー以外の沖縄電力の若手メンバーに意見を募り、サービスの普及戦略、営業戦略についても意見を求めた。太陽光発電は沖縄の未来を彩るポテンシャルを秘めているという想いから、彼ら若手メンバーにて練り上げたキャッチコピー「あなたの屋根に彩りを」を取り入れることとした。
そんなある日のこと、メンバーの一人から提案があがった。
「そろそろサービスの名前を決めないか」
沖縄新エネ開発の社員を含むプロジェクトメンバーで、会議を設定した。
「この会議でサービス名称を決める。会議室を出たときには沖電グループの将来を担う重要なサービスの名前が決まっている。心して検討しよう。」
熱い議論の末、沖縄新エネ開発社員からの素晴らしい提案がきっかけでサービス名称は決まった。屋根を「かりる」と英語で「屋根」を意味する「roof」。また、沖縄の方言で縁起が良い、福を招く言葉として使われる「かりー」を取った。
「かりーるーふ」の誕生である。

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Chapter07カーボンニュートラル宣言~かりーるーふサービス開始へ

かりーるーふのサービス化と並行して、沖縄電力社内では「カーボンニュートラル宣言」に向けたプロジェクト「プロジェクトゼロ」が始動していた(OKIDEN PROJECT 7参照)。
かりーるーふは、カーボンニュートラル実現のための具体的な方向性である再エネ主力化。その実現のため必須となる主要サービスとなる。説得力をもって、より具体的にカーボンニュートラルの実現に向けたロードマップを掲げるためにも、かりーるーふのサービス化は同じスピード感で実現させたかった。プロジェクトメンバーは次第にあせりながらも着実に課題をひとつずつクリアしていった。
そうして迎えた2021年1月22日。旧一般電気事業者初となる太陽光発電設備+蓄電池無料設置サービスである「かりーるーふ」のサービス開始について発表した。沖縄電力が旧一般電気事業者に先駆けてカーボンニュートラル宣言したその約1か月後のことであった。
記者会見では、沖縄電力副社長と沖縄新エネ開発社長が当社の再エネ主力化とかりーるーふにかける意気込みを伝えた。翌日のメディア報道を受け、早速かりーるーふの申込が殺到した。気が付けば1,000件を超えるほどの申込に至った。
かりーるーふは沖縄にとって求められるサービスとなる。沖電グループにとって将来を担う主力サービスとなる。プロジェクトメンバーはそう確信した。

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Chapter08再エネ主力化に向けた更なる挑戦

サービス開始以降、サービスを軌道に乗せるべく、様々な思考錯誤を繰り返した。お客さまからの申し込みに対し迅速に対応できるようサービスオペレーションの自動化を要所で取り入れること、まだ世間一般からは浸透されていないサービス内容について丁寧に説明するべく動画を作成するなど、紆余曲折ありながらも着実にサービスの仕組みは整いつつある。
ただし、再エネ主力化の実現に向けては、かりーるーふのサービス開始はいわばスタート地点である。再エネの導入拡大に加えて、再エネを主力的に使いこなしていくには、VPPの実現などまだまだ獲得すべき技術が必要である。
沖縄電力では、来間島において再エネと蓄電池を活用し、災害等において電力系統からの電力供給を受けずとも小規模エリア内で自立的に電力供給を可能とする地域マイクログリッド実証事業や、再生可能エネルギーと蓄電池を電力系統のニーズに合わせて調整力として活用するデマンドレスポンス実証など、様々な取り組みを並行して実施している。これらの技術をかりーるーふと組み合わせることでより一層の高度活用が期待できる。
再エネ主力化の実現に向けて更なる挑戦は続く。

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